コクヨ株式会社と株式会社良品計画が企画設計したSoloTime豊洲店。個人利用も可能に。
2022年夏にオープンしたSoloTime豊洲店。豊洲にはテレワークスペースなど働く場所が少なく、カフェで仕事や勉強をしているワーカーさんや学生が多かったそうです。そこで、その状態を改善するため豊洲店が誕生しました。SoloTime初の試みでもある、コクヨ株式会社と無印良品を展開する株式会社良品計画が連携して設計し、今秋には個人利用も可能に。
今回は、新たなテレワークスペースを生み出したコクヨ株式会社・ファニチャー事業本部 クリエイティブデザイン部の川口りつ子さんと、株式会社良品計画・空間設計部 空間デザイン担当の渡部奈保さん、磯野歩さんに設計のこだわりや豊洲店ならではの魅力を語っていただきました。
新旧が交わる豊洲エリアの特性をいかしたテレワークオフィスに
―豊洲店をオープンするにあたりみなさんでフィールドワークを実施されたそうですが、街を歩いて感じたことを教えてください。
コクヨ 川口さん:私は豊洲に住んで長いのですが、一般的に豊洲は新しい街、これからの街という印象が強いのではないでしょうか。フィールドワークをしていくと、古くからの工場やものづくりを行っている商店街もあり、新たな魅力を発見できました。
また、タワーマンションやオフィスビルが乱立しているため、無機質な街というイメージを持たれると思うのですが、歩いてみると大きな河川が流れ緑あふれる公園もたくさんあり、多様性が感じられる街だと思いました。
コクヨ株式会社 川口りつ子さん
良品計画 渡部さん:豊洲近郊はマンションが立ち並び商店も多く、生活する上で豊洲を出る必要がないのでは?と思っていました。ただ、コロナ禍で暮らす環境や家での過ごし方がめまぐるしく変化しているため、休日にちょっと仕事したいとか、空き時間を活用して好きなことをしたいとか、そういった希望を叶える場所が少ないと思いました。
街を歩いてみると子どもを乗せる電動自転車も多く、共働きのワーキング世帯も多い街だということもわかりました。家と働く場所の往復だけではなく、その中間領域のようなワークスペースがニーズとしてあるなと。
また、学生さんが近隣の商業施設にある有料シェアスペースを使って自習している姿も見かけたので、多世代の一人時間を充実させる場所が求められているのかなと感じました。
コクヨ 川口さん:豊洲には小・中・高・大と学校もあることから、学生さんも多い印象ですね。
良品計画 磯野さん:もともと抱いていた印象と少し違い、マンションが多いかと思うと一歩中に入れば古い街並みも残っていて、その辺も含めて印象が変わりました。みんなでフィールドワークを実施して良かったと思います。
―フィールドワークを踏まえて座談会を行ったそうですが、設計のアイデアに繋がったことや子育て世代のワーカーさんが抱えている課題など、どのようなことが見えてきましたか。
コクヨ 川口さん:座談会を通して、豊洲近郊に住んでいる方は核家族が多く、ご実家が遠方にあるという印象を受けました。そのため、祖父母などに頼りづらい環境のなか、モノ・コトのサービスのトライ&エラーをくり返し、仕事をがんばるスタイルをみなさん模索していました。近くの人とコミュニケーションをとりながらさまざまな方法を試し、自分の目標に挑戦していますね。
ですので、今回の豊洲店でも、何かやってみようという想いを支えられる場所にできればと思いました。
良品計画 渡部さん:座談会で集まった方は共働きの女性中心だったのですが、自宅内で働く環境や居場所を作ることに、ストレスを感じているという印象です。コロナ禍まで家に長時間いることもなかったと思うので、旦那さんとの仕事の割り振りや家事の分担、ワークスペースの作り方も変わってきていると思います。
マンション住まいの方が多かったのですが、マンションにはコミュニティやイベント、住民同士の交流は多く設けられていて、そこは新たに求めていないように感じました。
仕事をするだけではなく、カフェでもない場所が必要なのではと考えました。
株式会社良品計画 渡部奈保さん
良品計画 磯野さん:共働きが多く、子どもの送迎の間に一人時間を捻出するというのが驚きました。ですので、限られた時間をどれだけ心地良く自分のパーソナルスペースで使えるかということを念頭に、設計へいかしたいと思いました。
座談会中に出たのが『カフェ以上、オフィス未満』のような場所になればと。居心地はカフェよりいいが、オフィスほどの緊張感がないようにしたい。テレワークオフィスで趣味や勉強など、仕事だけでないさまざまなことをできる場所にしたいと考えました。
お互いにリスペクトして、設計をはじめ小物などちょっとした気遣いを追求
―設計する際に、こだわったポイントを教えてください。
コクヨ 川口さん:もともと弊社ではSoloTime事業に関わらせていただいていて、女性視点のやわらかい空間を意識して設計していたのですが、豊洲店では磯野さんが仰った『カフェ以上、オフィス未満』という点と、さまざまな働き方に視点をあてて、デザインをさせていただきました。
コワーキングエリアは暮らす領域にミックスさせるための工夫を凝らした一方で、個室席は豊洲の風景の一部である「海と砂浜」を想起させるような素材の選定や海藻の押し花を飾ったりし、今までのSoloTimeらしい表現も行いました。
個室席エリアがわかるようにイラストで説明。/廊下に掛かったインテリアにも女性らしさを。
また、ちょっとした気遣いをがんばりました。豊洲店は、無印良品の商品が使える「シェアストック」と菓子を集めた「一坪喫茶」が他店舗と違う目玉なのですが、そういった小物で編集できる空間をテーマに取り上げ、今までのSoloTimeのアイテムをすべて一から見直して、空間に合うハンガーフックやキーホルダーなど小物選定にも力を入れています。
無印良品の商品が並ぶシェアストック。アロマやツボ押しグッズも揃う。
無印良品の人気お菓子やドリンクが無料でいただける。
新木場にある材木屋さんに端材で作っていただいたキーホルダー。
良品計画 磯野さん:傘立ても、傘ってみんな個室に持ってくよね?というところから始まって、個室にも傘立てを設置しましたよね。あと、ごみ箱についても3日間くらい議論や選定に費やしましたよね。蓋のありなしや虫が来ないようにとか(笑)。
コクヨ 川口さん:無人運営をするにあたって、ごみがいっぱいになっていると印象も悪いですし、小さいごみ箱だとすぐいっぱいになって散らかるため、大容量のものに変えました。小物選定一個一個に、すべて理由があるんです。
お客様に快適に利用いただけるようこだわったごみ箱。
良品計画 磯野さん:良品計画としてのこだわりの一つ目は素材感、二つ目は緩やかな空間の間仕切り方、三つ目はやわらかい雰囲気を作り出すという点です。
一つ目の素材感は弊社のイメージを出したく、土や木、金属などの素材をいかそうと思いました。とはいえ、多数の方が使うためメンテナンス性も考慮しています。珪藻土クロスは白いクロスでやることが多いのですが、素材感があり色もベージュでやわらかな雰囲気に。掲示板や収納家具、ごみ箱周りも木質を中心に素材選びをしています。
圧迫感のない会議室に。木製のホワイトボードはキーホルダーと同じ材木屋さんに作っていただいたオリジナル。
二つ目の緩やかな空間の間仕切り方は、より居心地良い場所を作れるかがポイントでした。初めて現場確認に来た際、全面ガラス張りで吹き抜けの気持ち良い空間だったのでこれをいかしたいと思い、中央に大きなテーブルを設けました。対面で座ると目線が合って気になる人もいると思い、フェイクの植栽を入れて目線が合わないよう配慮を。
一人ひとりの距離も1m20cm程のゆとりがあるレイアウトになっているため、カフェなどに比べると一人あたりのスペースが広いのも特徴です。
席は外の景色を見ながら仕事ができる開放感ある雰囲気に。間仕切っている板も布を貼り込んだファブリックパネルにして、やわらかい印象に仕上げています。
個人会員も利用できる広々としたオープンスペース。/寛ぎながら会話や作業、食事などができる席も。
三つ目のやわらかい雰囲気は、入口からアーチが続く形にしてかまくらのようなこもれる部屋を表現しました。
店舗の外観はSoloTimeでできることを伝えるため、作家さんにイラストを描いていただきました。それがやわらかい印象を与え、中に入ってみようかなという気持ちにさせられたと思います。
集中して作業できるように作られたおこもりブース。/学生さんが勉強する様子や食事シーンなど、店舗内で何ができるかを描き入りやすい印象に。
―2社で協力しながら店舗を設計するにあたり、良かった点や大変だったことはありますか。
良品計画 磯野さん:コクヨさんはオフィスの設計には実績と経験値があるので、心強かったです。設計の話ではありませんが、コクヨさんと弊社は文房具から家具の領域が競合しているんですよ(笑)。取り合いではないですが、どちらの商品を使うかというところは慎重になりました。
コクヨ 川口さん:そこは丁寧に話し合いながら、無印良品の雰囲気を大事にしたいからシェアストックの文房具はすべて無印良品のものにしました。会議室のテーブルや個室の椅子は機能性を重視して弊社の商品を入れるなど、お客様がより快適に使っていただけるかを念頭に選定しています。
長時間座っていても疲れないコクヨの椅子を採用。
良品計画 渡部さん:弊社は一般家庭向けの商品を扱っているため、コクヨさんがとても尊重してくださったと思います。進める中でどっちの商品を使うのか混乱してくるのですが、そんな時はエリア分けをしましょう!と仕切り直しをしてから進行して、うまく領域を分担できました。
―コラボレーションして感じたメリットや、双方から見た設計の良さを教えてください。
コクヨ 川口さん:良品計画さんの課題解決方法が、ハードだけではなくさまざまな引き出しがあるところが勉強になりました。
弊社のオフィス設計ですと、どうしてもデスクや椅子を変えるなど費用がかかる方向に向かいがちなのですが、『お菓子で解決できますよ』『整理することで解決できますね』など、モノ・コトのアイデアの視点が素晴らしかったです。そういった解決方法は今度必要とされていくだろうと感じました。
良品計画 磯野さん:コクヨさんは、企画設計から施工まで一気通貫でプロジェクトが進められるため、最初の意思を最後まで突き通すことができる。ですので、並走してブレることなく完成できて良かったです。
川口さんは設計担当なのですが、プロジェクトを回すため多岐に渡るところをまとめてくださったのも大変助かりました。
株式会社良品計画 磯野歩さん
コクヨ 川口さん:今回はさまざまな人の意見をまとめることを大切にしました。施設をどう運用していくかも大事で、こういうことをするとこういうクレームが来る、こういうことをするとすぐ壊されるなど、現場からも意見がたくさん出ました。これまでSoloTime事業で培ってきた強みをいかしました。あと、弊社のSoloTimeチームが一番のヘビーユーザーなんですよ(笑)。不満に思っていたポイントがそれぞれ出てきて、今回の設計にいかせました。
良品計画 磯野さん:成長し続けているというか、バージョンアップし続けている感じですね!
趣味や勉強など、一人時間を大切にする場所を目指して
―豊洲店のコンセプトになっている『暮らしに寄り添うデザイン』について、どのように考えていますか。
コクヨ 川口さん:テレワークが進み、仕事がどんどん生活の中に入ってきて、そうなると24時間仕事ができてしまう。そういう環境の中で、暮らしと仕事のバランスをうまく個人で調整できる人が今後伸びていくと思っています。そのため、働く場所や暮らしの中に『暮らしに寄り添うデザイン』があることで、仕事に偏りすぎないようなバランス感覚を戻してくれるのではないかと思っています。
良品計画 渡部さん:そもそも弊社は暮らしを観察することを大切にしていて、そこから見えてくる課題をどうデザインの力で解決できるかを考えて、ものづくりをしています。
豊洲店はオフィスというより、一人時間をより集中できる家以外の拠点ということで、家にいる時間のようにお菓子をつまみ、お茶で一息つけるような「一坪喫茶」という場所を提案しました。自分で過ごしやすいように備品を選べる「シェアストック」も設置。内装やインテリアのこだわりもあったのですが、備品に関しても暮らしに寄り添った過ごし方ができるような仕掛けを提案しています。
選択肢を増やすことで、多様な働き方を実現
―今後各社の働き方の方針について教えてください。
良品計画 渡部さん:弊社は全国に店舗があることが強みで、店舗が個店経営を大事にしています。店舗それぞれが同じような形で出店していくのではなくて、地域に根ざしその特性を出していけるような店舗にしていこうと。それに合わせて働き方も固定ではなく自由になってきていて、一箇所に拠点を構えるというよりは自分の業務とか働き方に合わせて場所を選べるような、フレックスなスタイルに変わってきつつあります。ですので、SoloTimeのようなテレワークスペースで働く社員も増え、より多様に働ける風土になってきています。
コクヨ 川口さん:withコロナの時代、今これができないけどこれならできるといった選択肢を増やすことが重要だと思っています。弊社でもその選択肢を増やすための場所や仕組み作りを今後も作っていきたいと思っていますし、今回の豊洲店は学生や個人向けに開放するという新しい取り組みを行っているので、豊洲で働いて、暮らして、学んでいる方々の選択肢を増やす一助になればうれしいと思っています。
SoloTime個人会員向けプランをご用意!
2022年秋豊洲店では個人会員にもご利用いただけるように個人向けプランを展開予定です。ぜひこの機会にご利用ください。
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